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酒場遺産 ▶43 上野 たる松本店 壮観な四斗樽

 JR上野駅と御徒町駅の間の山手線高架周辺は、アメ横を中心とした無数の酒場が広がる繁華街だ。最近は完全に多国籍化しており、インバウンド観光客、若い人たちのグループを中心に平日の昼間から盛況だ。筆者の住まいは徒歩20分ほどなので、この界隈をよく散歩をするのだが、コロナ禍明けには以前より賑わいが加速しているように思う。その繁華街の東側(海側)に創業65年の老舗酒場はある。戦後直後に食堂として創業、50年前に酒場となった「たる松本店」だ。JRの高架耐震工事のため一時閉店し仮店舗で営業していたが、8年前に現在の場所に戻り、かつての酒場の内装やファサードは、かつてのものを復元したという。しかし老舗にありがちの「こだわり」は感じられない。ひたすら明るく気持ちよい大衆酒場なのだ。

 この日訪れたのは遅い時間で、客のほとんど帰ったカウンターで広島の銘酒「酔心」樽酒を飲んだ。酔心・菊正宗・高清水など目の前にずらりと並ぶ四斗樽はなかなか壮観だ。三増酒(三倍増醸清酒)が中心だった戦後を引きずっていた時代に、本物の日本酒を出そうと、樽酒を並べたのが由来という。酒はビール・焼酎・チューハイ・ホッピーなどひと通りそろえているが、表に「全国銘酒」と大きな看板があるだけに日本酒の品ぞろえは豊かだ。

 樽酒は高清水・酔心・菊正宗が枡で600円、片口一合で490円。冷酒は片口で、まつもと・作・鍋島が750円、彩来・写楽・鳳凰美田590円、初孫・船中八策490円、浦霞・一ノ蔵390円。料理はマグロぶつ・シメ鯖・ネギキムチ・きゅうり漬け・さつま揚げなどが300~550円程度、今日のお薦めと黒板に書かれたメニューには、しまあじ刺身・ひらめ刺身680円、揚げ筍490円、筍酢味噌和え390円とある。特別なことはないが、一人でも多人数でも気持ちよく楽しめる店だ。  (似内志朗)