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酒場遺産 ▶44 湯島 川中島 創業100年の焼き鳥屋

 不忍通り沿いの千代田線湯島駅6番出口に隣接し、風情ある看板建築(建築物の前面だけ看板のように立ち上げた木造建築)が建つ。今回訪れたのは大正13年創業の焼き鳥屋「川中島」だ。湯島駅隣だが、住所は台東区上野である。この辺りは文京区(湯島)と台東区(上野)と千代田区(外神田)の区境が複雑に入り組んでいる。「川中島」はコンパクトなつくりで、1階は厨房とカウンター6席、2階はテーブル席18席。内装に最近手を入れたとかで、老舗の風情を残しつつも小ぎれいで女性客も多い。今夜はカウンター席で高知の酒「南」1合半、野菜スティックのお通し(自家製の味噌で食べる)、レバー・ハツ・せせりを一本づつ頼んだ。酒は七賢、南、作などだが、今の店主の父(2代目)がワイン好きだったとのことでワインの品ぞろえも豊富だ。メニューに自家製レバーパテ、砂肝のアヒージョなどワインに合いそうなものも多い。バルサミコ酢とワインを煮詰めたタレの掛かる、丁寧に焼かれた秋田比内地鶏の串はとても美味い。一串250~290円だが十分満足だ。焼き鳥の他、生ワサビ焼き、千寿ねぎ、しそ巻きなどの焼き物など、どれも美味そうだ。一品料理も豊富で400~900円程度、鶏釜飯、親子丼、比内地鶏の鶏スープ・雑炊・うどんなども出す。ランチタイムのきじ焼重は人気らしい。

 客も引けた後、店主に店の由来をお聞きした。大正13年、今から100年前にこの近くで鶏問屋を構えたが、酒場の開店許可が得られず、鶏をリアカーで浅草へ運んで売っていたという。96年前の昭和3年に現在の看板建築の建物に店を構えた。現在の店主は3代目で物静かだが、ホスピタリティに溢れた方だ。階段の壁にかかる鶏の絵は 評論家大宅壮一氏の描いたものという。ひとりで飲むならば一階のカウンター席をお薦めしたい。(似内志朗)