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酒場遺産 ▶67 蒲田西口 鳥万 一種独特の解放感で一杯

 蒲田は酒飲みの聖地である。JR京浜東北線蒲田駅と、東に800メートルほど離れた京浜急行京急蒲田駅の間の蒲田東口商店街には大小様々な酒場が並ぶ。筆者も勤め人時代には羽田からの早朝フライトのために蒲田のビジネスホテルに泊まり、これ幸いとこの辺りでよく飲んだものだ。今回紹介するのはJR蒲田駅西口「鳥万」である。西口も池上線と東急多摩川線のターミナルとなっており、その周辺には酒場が面的に広がる。駅近くの「鳥万」は席数170を誇る巨大な大衆酒場だ。なんと5階建てのビルごと酒場である。店の人に聞けば、「創業したのは前のオリンピックの頃1964年、もう60年経ちます」と言う。筆者が店を訪れた時、すでに満席だったが、どうにか1階厨房前のカウンター席に滑り込むことができた(ここが一等席)。レバー・シロ・かしら・砂肝などの焼鳥一串100円、「サービス品」ねぎとろ200円。黒ホッピーを頼んだがジョッキの焼酎が多すぎ、「ナカ」追加は必要なかった。

 カウンター上の壁には無数の短冊状のメニューが貼られる。焼き鳥は一律100円。板わさ、豆腐ステーキ、みそ漬け豆腐、鶏皮煮込み、鮭ハラス、きくらげ玉子炒、骨せんべい、揚げ出し餅、鰺フライなどが300~400円。奥の白板には日ごとのお薦めが書いてある。ヤリイカ酢味噌、えんがわ刺し、きびなご刺し、ぶりタタキ、いわしタタキ、サーモン中落ち、生ホタテ刺しなど、思わず頬が緩む海鮮が300~450円程度と安い。酒は生ビール390円、ビール大瓶490円、バイスサワーセット350円、清酒古都桜220円、他に焼酎やワインなどひと通りそろえる。16時の開店と同時に1階カウンター席はすぐ埋まる。赤羽にしろ蒲田にしろ、かつての工場労働者の街の酒場には一種独特の解放感がある。工場での辛い仕事を終え、日の高いうちから一杯飲む喜びだろうか。その空気感が、時を経た今でも人を自由にさせる気がしてならない。(似内志朗)