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酒場遺産 ▶75 高円寺 唐変木 昭和にタイムスリップ

 高円寺駅北口から北西方面に走る、小さな飲食店や風俗店などが並ぶ中通り商店街(セントラルロード)を5分ほど歩くと「高円寺村大字居酒屋 唐変木」と書かれた小さな看板が路上に置かれている。そこを左手の幅1メートルもないビルの隙間に入れば、正面に地下に降りる怪しげな階段が見える。曲がった階段を半階ほど下がると大きな木の開き戸がある。そこが「唐変木」の入口だ。中に入ると奥に長い、昭和にタイムスリップしたような燻し銀の空間が広がる。高円寺と言えども、「ディープ」という言葉がここほどに似合う場所を知らない。浅いボールト状の天井、左手には長いカウンター、右手には数百枚はあろうLPレコードと大きなスピーカーが置かれている。店名の「唐変木」の由来は「中国の変な木偶人形」とのことで、変な形の訳が分からない中国の木偶人形が「偏屈で気が利かない人」を意味するようになったらしい。この店を知ったのは、かつて地域創生の集まりで知り合った人からだった。それ以来、高円寺で呑むとこの店に立ち寄ることが多くなった。ママ(むっちゃん)は、とうに古希を過ぎているがシャキッとして、つい飲みすぎる筆者を制し、たまに耳の痛いことなど言っていただける。

 客のほとんどいない空間に、時折ママの好きな中島みゆきが流れる。酒を飲みつつ涙したこともある。酒はビール、ウィスキー、バーボン、ラム、ジン、テキーラ、ズブロッカ、焼酎、日本酒、ワイン、ソフトドリンクも一通りそろえている。料理も手の込んだものはないが、乾きもの、炒め物、揚げ物など手ごろな値段だ。中でも「にんにくスパ」は美味しい。具もほとんど入っていないのだが、塩味とにんにくが効いている。高円寺に来られた際は一度訪れてみてほしい。高円寺をもっと好きになると思う。深夜2時まで店は開いている。(似内志朗)