高円寺ラバーの筆者は、南口の「小料理屋 休」(本紙連載第9話)で飲み、中通り商店街の「唐変木」(第75話)で〆ることが多いのだが、たまに「小杉湯」へ歩くこともある。飲み過ぎの方にはお薦めできないが、酒の後の湯は気持ちの良いものだ。小杉湯は昭和8年から続く銭湯だが、3代目の平松佑介さんが2017年に代表となり様子が大きく変わってきた。まちづくりに関心の強い平松さんは、仲間たちと空き家アパートを活用したコミュニティ「銭湯ぐらし」、オンラインサロン「銭湯再興プロジェクト」などを興し、20年には小杉湯の隣地に「小杉湯となり」という畳敷き共用空間や湯に入った後に寛げる場所を備えた小さなコミュニティスペースをつくり注目された。原宿の東急プラザ原宿「ハラカド」の地下に、「チカイチ」という銭湯を中心としたスペースをプロデュース。平松さんは一躍「時の人」となった。その小杉湯の対面に、酒場「はらいそ」が建つ。賑やかな小杉湯と対照的なバラック風の酒場だ。正面には「酒とつまみ はらいそ」と不器用に描かれた手づくりの木製看板が目立つ。約10年前に、築60年超の中華料理屋が入っていた建物を、店主の近藤さんが大工経験のある仲間と一緒にリノベした。
L字カウンターとテーブル席のこじんまりした店内は、一種独特のディープな空気を醸し出している。メニューは几帳面な手書き文字で書かれている。サッポロ黒ラベル小瓶、チューハイ、バイスサワー、猿川、黒霧島、日本酒、ウイスキー、ジン、テキーラ、ラム、ベルモット、ベルノー…。久しぶりに寄り、カウンターの端に座った。「黒ラベル瓶ありますか」「ありません」「日本酒は何がありますか」「高清水だけ」「じゃ冷でください」。愛想のない店主は酒を出すと、再び常連客とガルシア・マルケスの話の続きを延々としている。こんなところも高円寺ラバーとしては嬉しい。ひとりじっくり飲む時は、本を一冊もっていくことをお薦めしたい。(似内志朗)