野毛には、いくつか名店と言われる焼鳥屋があるが、「末広」はその中でも最も知られた人気の焼鳥店である。引き戸を開けると、左手に厨房とカウンター、右手に2人掛けのテーブル席、奥に小上りがある(全37席)。昭和25年(1950年)の創業というから、既に74年経つ老舗である。
「野毛末広お品書き」を見れば、(1)かわ280円、(2)ねぎ肉270円、(3)ピーマン肉280円、(4)しいたけ肉280円、(5)なんこつ400円(1本OK)、(6)レバ280円、(7)モツ280円、(8)はつ280円、(9)すなぎも270円、(10)うずら240円、(11)手羽先550円(1本OK)、(12)銀杏290円、(13)ししとう290円、(14)しいたけ540円(1本OK)、(15)冷やしトマト400円、これがメニューの全てだ。「カードは使えません」、「串各2本以上のご注文でお願いします」、「朝から一本一本丁寧に刺しております。串から外さずにお召し上がりください」とあり、全てに英訳が付されている。酔っぱらい客お断り、現金のみ、塩かタレは店で決めている。全ては店主はじめとする「最高の焼鳥を最高の状態で食べてほしい」という店の気持ちの表れだろう。店主を中央に厨房に並び真剣なまなざしで串を焼く職人たちを見れば、いただく方も自ずと気が引き締まる。頼んだ料理は全て絶品だ。
麦酒はキリン・アサヒ・サッポロの大瓶、キリンラガーとノンアルコールの小瓶、ウイスキー系はオールド水割りと陸ハイボール、麦焼酎は神の河(水割り・ロック・ソーダ割り)、酒は白鹿(冷酒・常温・熱燗)と絞り込んでいる。料理(焼鳥)も酒も、客の好みに合わせむやみにバリエーションを広げるのではない。こうした確信と自信に満ちた店の姿勢がメニューからも伺える。人気が出ると「店がエライ」と勘違いする店も稀に見かけるが、ここ「末広」は客に美味しく食べてもらう配慮も十分だ。プロの仕事を見せていただいた思いだ。(似内志朗)