人口減少に伴う人手不足感の高まりは持続可能な経営を難しくする。特に内需型の中小企業にとっては問題が深刻化している。住宅・不動産業界もその例外ではない。むしろ渦中の業種である。中小事業者が加盟する業界団体を見ると、10万社を超える事業者が存在している。特に中小零細の宅建事業者は子どもに事業を受け継ぐ意思がないなどで「会社を畳むべきか」と悩みは深い。生き残りに向けての後継者探しが急務な中で、事業承継の方法や可能性などを探ってみた。
事業が承継できないために倒産するケースは増えている。東京商工リサーチの調査では、21年度上半期(4~9月)の「後継者難」が原因の倒産は181件(前年同期比4.6%増)と2年連続で前年同期を上回り後継者難の倒産が過去9年間で最多となった。負債1000万円以上の倒産件数は新型コロナ禍の資金繰り支援を受け低水準で推移しているが、「後継者難」の倒産は全体の6.1%を占めて前年の同じ時期との比較で1.7ポイント上昇した。建設業とサービス業他が20.99%ずつで最多となり、不動産業が7.18%だった。後継者難の倒産要因は「死亡」(同28.2%増)が最も多い。同社によれば、銀行の貸し出し審査は事業の将来性などを判断する事業性評価で後継者の有無が重要な判断になっている。
国の免許や資格で守られて淘汰の波は関係ないと考えられていた業界にも安堵感はない。弁護士や薬剤師、歯科医師などが今や資本の論理で淘汰されていく時代に、宅建事業者からは「極端な見方をすると、将来的に半分が消滅してもおかしくない」と危機感を募らせる声も上がる。厳しい状況を子世代が見て「親父の会社は継がないよ」との声は会社を畳むか売却するかを迫られているのと同じだ。
自社の株価を引き下げ
事業継続では経営と財産の2つを承継する作業が欠かせない。まずは後継者の育成から始まり、経営理念や経営戦略、経営計画、財務問題に取り組む。財産承継では財産一覧、株主一覧、役員一覧などの書類をそろえて現状を分析した上で事業承継のスケジュールを決定する。
事業承継は会社の株を100%後継者に引き継ぐことがカギだ。生前贈与や相続時精算課税制度を活用するため、会社の規模感で異なるが、中小でも承継に3年以上は必要とされ、10年はほしいとの見方もある。株は100%後継者に引き継ぐことが肝だ。少なくとも3分の2以上、株主総会の特別決議分以上は必ず引き継ぐ。それができないと経営権の争奪戦にのちのち発展する火種になるためだ。
非上場会社は類似の上場企業との比較で株価を算定する。資産と利益、配当を中心に株の評価額を算出する。その株価は会社の利益が大きく左右するが、株価が高いと膨大な相続税が発生する。このため会社の利益を下げることで株の評価額を引き下げる。本来なら収益力を問われるが、事業承継では利益を下げる矛盾を抱え込むジレンマに陥る。方法論としては、適正範囲内で社長に退職金を多く支払い利益から除外する。従業員に多くボーナスを支払うことでも経費化できて同じ効果が得られる。賞与を多く支払えば一石二鳥だ。従業員のモチベーションを引き上げながら節税対策につなげられるからだ。経費として落とせるものを探しながら節税する。
財産遺留分の対応も
一定規模の会社ならば会社分割で株価を下げるなどバリエーションが広がる。純資産は不良在庫の処分や不良債権の放棄などで圧縮する。企業の状況に応じた方法で自社株価を下げることで節税につなげる。ただし、業績数字を下げて銀行からの資金調達に支障を来さないよう事前に銀行に事業承継の全体像を把握してもらう必要がある。
後継者以外の財産遺留分にも対処する。「株を後継者に全移譲するには他の相続人に株以外で資産を分配するだけのキャッシュがあるのか。オーナー所有の土地で事業を営んでいる場合、その土地を分割して相続すると事業の将来性に不安が残る。リスクを想定し、遺言で『除外合意』や『固定合意』などを組み合わせ後継者以外の相続人の対応も欠かせない」(都内の2代目社長)と承継には手間暇が掛かる。一方、後継者が見つからない場合はどうすべきか。次回で追ってみたい。