住宅価格の高騰が、国も強い懸念を示すほどの社会課題となっている。他方、一部の企業・年代を除けば国民所得は低迷が続く。国民の住宅取得能力の低下を受け、賃貸住宅の存在感と重要性、そして質的向上への要請がこれまで以上に高まっていると言えよう。
足元の統計では、持ち家と分譲住宅の新設着工推移は全国的な減少傾向を示している。必然的に、生涯を賃貸住宅で過ごす人の割合も増えるはずだ。不動産による資産形成の機会損失は課題だが、持ち家でなければ〝豊かな住生活〟を送れないという道理もない。
とはいえ実態として、賃貸住宅の品質にはまだ課題が多い。国土交通省の「23年住生活総合調査」によると、住宅・居住環境に対する「不満」率全体は減少傾向にあるものの、ほぼ全ての世代・世帯構成で「借家」の不満度は「持ち家」よりも高く、横ばいで推移している。もちろん、十分な品質・性能を備えた物件も相当数供給されているが、全体として見れば、我が国の賃貸住宅は明らかに居住者ニーズに応えきれていない。
特に満たせていないのが、昔から指摘されている、子供のいる世帯における「広さや間取り」へのニーズだ。加えて、「省エネ・断熱性」「遮音性」「耐震性」への不満も依然として大きい。高齢者世帯からは「バリアフリー」への不満も大きい。
〝賃貸は仮住まい〟というイメージの弊害かもしれないが、現在の動向を見る限り、一部の富裕層を除く標準的な国民の〝終の棲家(ついのすみか)〟は賃貸住宅へと移らざるを得ない。そのため、特に手薄なファミリー向け物件を始め、賃貸住宅には現実的な家賃を逸脱しない範囲での質的向上が求められるが、オーナー側の動きは鈍く「とにかく後ろ向き」(賃貸業界団体の談)のようだ。
確かに賃貸経営という事業において、効果の不明瞭なバリューアップへの投資は難しい。しかし、それでは将来的に賃貸経営が難しくなることも容易に想定できる。遠からず、我が国は世帯数も減少に転じ、賃貸住宅の余剰は拡大する。そうした中で「選ばれる賃貸」であり続けるためにどうすべきか。例えば、行政による補助事業等で対応可能なケースも多いと思われるため、オーナーによる活用に加え、管理会社など事業者・業界による積極的な情報提供と普及活動も求められるだろう。
併せて、単身の若者世代やファミリー層、高齢者層など、ターゲットとなる居住者を明確化して、ニーズに対応した品質の物件を提供していく方向へと意識を転換していくことが望ましい。ある識者は、「現代の若い世代は、多くが生まれた時から一定の品質の住宅で育ってきているので、性能の劣る物件は選択肢から除外する」と分析する。持続的な賃貸経営を考えるならば、もはや物件の質的向上をおろそかにできる時代ではない。